ドクター・オブ・オステオパシック・メディスン

森田 博也 DO


第24回:風邪・インフルエンザ②(117号掲載)

第23回:風邪VSインフルエンザ(116号掲載)

第22回:妊娠と不妊 その4(115号掲載)

第21回:妊娠と不妊 その3(114号掲載)

第20回:妊娠と不妊 その2(113号掲載)

第19回:妊娠と不妊 その1(112号掲載)

第18回:「眠り」後編(111号掲載)

第17回:「眠り」前編(110号掲載)

第16回:頭蓋オステオパシーを考える(109号掲載)

第15回:過敏性腸症候群(IBS)のオステオパシーテクニック(108号掲載)

第14回:IBS(過敏性腸症候群)に関して②(107号掲載)

第13回:IBS(過敏性腸症候群)に関して(106号掲載)

第12回:関節リウマチとそれに対するOMT(105号掲載)

第11回:関節リウマチとオステオパシー Vol.2(104号掲載)

第10回:関節リウマチとオステオパシー Vol.1(103号掲載)

第9回:これからの医療(102号掲載)

第8回:アロパシー医学は対症医学(101号掲載)

第7回:これからの医療「オステオパシー」(100号掲載)

第6回:オステオパシーのルーツ(99号掲載)

第5回:もう一つのタイプの医師(98号掲載)

第4回:言い訳~アメリカン・ジョーク~(97号掲載)

第3回:SD~ソマティック・ディスファンクション(体性機能障害)~(96号掲載)

第2回:オステオパシー医学~これからの医療~(95号掲載)

第1回:もう一つの医師(94号掲載)


第24回:風邪・インフルエンザ②(117号掲載)

 

今年もインフルエンザは猛威をふるい、あちらこちらの学校が学級閉鎖を余儀なくされたそうです。今回はインフルエンザや風邪の治療方法などを中心に話を続けていこうと思います。

風邪をひくと咳、くしゃみ、鼻水、咽頭痛、発熱などが症状として現れますが、一般的にどれか一つの症状が強くあらわれてきます。医療機関で受診をすると、咳・くしゃみ―咳止め、鼻水―鼻水止め、咽頭痛―痛み止め、発熱―解熱剤などの薬が処方されますが、これらの薬効は風邪の諸症状を抑えるだけで、風邪本来を治すものではありません。

元々現代の西洋医学はAllopathic医学であり、対症医学としての治療です。例えば鼻水や咳とは気道に侵入した病原菌やウイルスを体外に出す現象(症状)ですが、薬はその現象(症状)を抑えることが役割になります。発熱についても38.5℃程度の熱が出るのは、平熱時に比べ白血球の免疫作用が効率よく働くためです。それを「しんどいから」と安易に解熱剤を使い、熱を下げるのもどうかと思います。41℃までの発熱は人体において大丈夫という研究報告もあります。抗生物質も黄色ブドウ球菌のような細菌には効果があってもウイルスには効きません。

Allopathic医学である現代西洋医学に対して,全体医学holistic医学で患者の治療に当たるOsteopathic Medicineではどうするのか。まず、リンパの流れを良くして免疫の機能を高めます。リンパ管は下水溝のようなもので、各細胞で排出された老廃物を集めて捨てる役割を持ちますが、薄い単層のカベで覆われているため流れが悪くうっ滞が起き易い箇所でもあります。

皮膚の表層を流れるリンパ管に対しては、軽擦法(エフラージ)を顔面頭部、四肢に施し、胸郭入口を揃えて、横隔膜をドーム化して、肋骨挙上を施します。それにより、体幹部(主に呼吸筋)を緩め、咳などで呼気に傾いた肋骨をフリーにして、傍脊柱筋の位置にある交感神経連鎖に働きかけ、昂ったインパルスを調整します。もちろん、オステオパシーでは、手技による治療を対症療法に加えて施すものであり、患者さんの痛みや辛さを少しでも早く軽快に導くことを目的とするものです。

現代西洋医学に対抗するのではなく、補うように全体医学が存在する。主体はあくまでも患者自身であることが、医療に携わる者の考えとして何よりも不可欠だということを忘れてはなりません。


第23回:風邪VSインフルエンザ(116号掲載)

執筆の今、インフルエンザの予防接種の季節になってきました。この季節性の疾患は、毎年11月頃から患者が増え始め、1~2月頃をピークにして、3月頃に終焉を迎えます。一方、一般的な風邪は平均的には年に3~6回罹患するといわれていて、ほとんどの場合自然緩解をします。このことはインフルエンザウイルスが、湿度と温度の低い冬ほど活動性が高くなるという研究の報告と一致します。

一般に我々が風邪といっているのは風邪症候群の中の普通感冒を指すものです。風邪症候群はその臨床症状や病変部位、原因となるウイルスから6つの病型があり、普通感冒もインフルエンザもその病型の1つに含まれています。インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3種類がありますが、ヒトに感染・流行するのはA型とB型です。A型は遺伝子変異が起こりやすく、ウイルスが少しずつ変異を繰り返しながら鳥獣を介し、人間に感染するようになります。

一方、普通感冒もライノウイルスやコロナウイルスといったウイルスが原因で感染・発症し、よく似た症状~典型的に咳、鼻水、咽頭痛~といった多症状を呈します。安静にして、水分補給を行っていれば、通常は3~5日で自然緩解して、重篤な病気になることは少ないはずです。インフルエンザも免疫機能が正常に働いていれば1週間程度で治まります。

風邪症候群の中で上気道感染を呈するインフルエンザと普通感冒は同じような症状と緩解をたどるということです。

しかしながら、インフルエンザと診断をされた場合、小児では中耳炎、熱性けいれん、さらに急性脳症を引き起こす場合もあります。高齢者や免疫力の低下している患者では気管支炎・肺炎を伴うなど、重症になることもあるので注意が肝要です。基礎疾患の有無やリスクに関わらず重症度の観点からもインフルエンザ治療薬の適応と使い分けを行う必要があります。

余談ですが、現在使用されているインフルエンザ治療薬にはウイルスの阻害方法に違いがあって、薬剤がウイルスの表面に接合して宿主となる我々の細胞に吸着を阻害するものと、宿主細胞からのウイルスの放出を防ぐものとがあります。

『風邪は万病のもと』

次号ではオステオパシー的な風邪の解釈、ウイルスの侵襲に伴って起こる身体の反応とそれに対するオステオパシーのアプローチについてお話をしたいと思います。


第22回:妊娠と不妊 その4(115号掲載)

今回で4回目の寄稿文で、実に簡単ではあるが不妊について説明してきた。ここで不妊とは避妊などをせずに夫婦生活を普通に営みながら1年間妊娠の兆候が現れないことをいうが、この場合でのオステオパシー的な考察をしてみようと思う。

産科や婦人科特有とは限らず、オステオパシーの特徴的な思考は以下の3つがあげられる。

1.正常妊娠の予定である患者でも固有の力学的・生理学的、生物学的ストレスを持つ。

2.身体には、効果的に作用する自由な状態であれば、妊娠のストレスに対して最適の代償を提供する自己調整メカニズムがある。

3.オステオパシーのケアは、身体ユニット、構造と機能の相互関係、最適な恒常性の混交という信念と臨床観察に基づくものである。

つまり、不妊治療そのものではないけれども、子宮の状態を良くして妊娠をよりしやすくする。例えば、静脈やリンパの還流を促すことにより、骨盤腔つまりは内性器の血流や腹腔への圧力の正常化を図る。当然、関連する腸管の血流も促され、腹部の血流全体が良くなる。これは妊娠に関わるだけでなく、生理前症候群の軽減にも繋がる。

その他、骨盤を整えることで子宮や卵巣の位置関係としての負担を減らす。内臓マニピュレーションにより内臓の過緊張を軽減したり、各臓器の動きに追従することでその働きを促す方法もあげられる。つまり、構造を整えることにより、正しく機能がその働きを充分に行えるようにするのである。このように、身体が本来持っている機能や調整力が構造的な問題により発揮できないのであれば、それができる状態に戻すのがオステオパシー徒手医療(OMT)の担うところとなる。何も特別な事をするのではなく、臓器が働きやすいようにアシストするだけなのだ。

現代の医療においてホルモン療法や体外受精、人工授精など不妊治療を受けている方は数多くおられるが、上記のオステオパシーの考察をもってすれば、医療機関(西洋医学)での治療を外から続けながら、身体の構造や機能が正常に働くようにすることで、治療の効果を最大限に発揮できる環境を整えるのがOMTを含む代替医療の在り方として望ましいと考える。

夫婦生活を営んでいたら、自然と妊娠すると思われる方が多いかと思うが、実際一年以上経っても妊娠しない夫婦も多くいる。オステオパシーへもぜひ視野を広げてもらい、役立てて頂ければ幸いだ。


第21回:妊娠と不妊 その3(114号掲載)

不妊は、女性不妊に多い卵管性不妊と、排卵性障害。男性不妊を合わせて、3大原因としている。今回は男性不妊について話を進める。

 

男性不妊症の原因

1,性機能障害:射精がうまくいかない場合

勃起不全ED(Erectile Dysfunction):ストレス等、交感神経が亢進することにより、有効な勃起が起こらず性行為そのものが出来ない。本来第2~第4仙髄から起始する副交感神経である仙骨内臓神経が活性化され勃起を呈する。オステオパシーの見地から仙骨や骨盤の体性機能障害(Somatic Dysfunction:SD)がEDを作ることも考えられる。

膣内射精障害:性行為は可能だが膣内射精ができない。治療としてはタイミング指導が挙げられるが心理的な問題があり、固執してはならない。

その他性機能障害が出やすい病気:糖尿病、動脈硬化などは軽症でも勃起障害を呈しやすい。重症では射精障害や逆行性射精(一部の精液が膀胱内に射出) がある。

 

2,精液性状低下:射精される精液中の精子の数や運動性が悪くなっているもの

軽度~中程度

・本来、精子は精巣(睾丸)で作られ、精巣上体という細い管を通る間に運動能力を獲得し、受精可能な精子となるが、その過程に異常がある。その他、精子の数が減少、精子の運動率低下、精子の奇形率が高くなるなど、受精率低下を招くとされる。

・造精機能障害は精索静脈瘤によるものだが、外科的介入により緩解の可能性あり。

高度

・精液中の精子の数が通常の1/100と極端に少ない

・精子の運動率が20~30%と極端に低下

・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

・視床下部~下垂体で造精機能を司るホルモンの分泌低下停留精巣の手術後

・おたふく風邪による耳下腺炎症精巣炎

 

3,無精子症:射出された精液中に、全く精子が見られない

・閉塞性無精子症~精巣では精子が作られているのに精子が出てこない

・先天性両側精管欠損症

・精巣上体炎後の炎症性閉塞

・鼠径ヘルニアなど

・精巣内では閉塞がないのに精子が全く造られていない(原因不明)

・染色体の異常など

 

今回は、男性不妊症の主な原因を挙げた。不妊に苦しむ夫婦にとって非常に繊細な問題である。

(次回その④最終)


第20回:妊娠と不妊 その2 (113号掲載)

不妊についてはその調査した時代や国、その風習が様々で、他の病気のように、はっきりとした集約データが出ているわけではない。2007年に出された世界的な統計では不妊比9%だ。

不妊の3大原因は、排卵因子、卵管因子、男性因子が挙げられる。女性不妊は以下に述べるとして、女性と男性のどちらに原因があるかについての不妊因子は男女ほぼ同等とされている。男性不妊はほとんどが造精機能障害である。

女性側の不妊因子について

1、排卵因子~、月経不順などから排卵障害をきたし、不妊症になる。その他、乳汁分泌のホルモン分泌亢進による高クレアチン血症、男性ホルモンの分泌亢進による多嚢胞性卵巣症候群、環境の変化に伴う大きな精神的ストレス、短期間での大幅なダイエット、等。

2、卵管因子~クラミジア感染症にかかると、卵管閉鎖や癒着が起き、卵子が卵管に取り込まれにくくなる。その他、虫垂炎など骨盤内手術を受けた患者にも同様のケースがみられることがある。また、月経痛に鎮痛剤を常用していると、子宮内膜症を起こし、卵管周囲貧血になり潰瘍が存在し、受精卵の着床が妨害される。

3、子宮因子~月経量過多で貧血と言われている患者は子宮筋腫から粘膜下筋腫を引き起こす場合がある。子宮筋腫は受精卵の着床障害だけでなく、精子が卵子に出会うのを妨げる。子宮内膜ポリープ( アッシャーマン症候群)は月経量が減少し着床に影響するといわれている。また、先天的に変形している子宮奇形もみられるが、これはむしろ、反復する流産の原因とされる。

4.頸管因子~子宮頚部の奇形、手術、炎症などにより、頚管粘液量が減少した結果、精子が子宮内へ貫通しにくくなる。

5、免疫因子~免疫因子の何らかの異常により、女性が抗体を産生し、抗精子抗体を子宮頚管に分泌するため、運動性の良い精子でもその運動を停止してしまう。この抗体は卵管にも分泌され、人工授精で子宮腔の奥まで精子を注入しても卵管で失敗することが多い。また、受精の場面でも精子と卵子が結合するのを妨害するので厄介である。

妊娠と不妊についての中編をお伝えしたが、今後2007年度の不妊比統計データ9%が上がる可能性が極めて高い。真剣にこの問題と向き合い、現状が良くなるよう原因を追究していかねばならない。

(つづく)


第19回:妊娠と不妊 その1(112号掲載)

日本は今、国内外において様々な難問を抱えているが、中でも一つ問題なのが、人口が減少し少子化傾向にあるということだろう。戦時中は「産めよ、増やせよ」と富国強兵の旗のもと、戦地へ赴く兵隊の補充をする必要があるので、妊娠・出産は国の政策と相まって、人口の増加が奨励されたのであろう。終戦後には復員兵が街にあふれ、焦土と化した国土から、他国も驚く高度成長を遂げた。その大きな原動力になったのは『昭和一桁』の方をはじめとするマンパワーである。日本の少子化は日本人のマンパワーを失うことで、この問題も看過できないことだと思うのだが・・・ 。

現在、不妊の定義は「妊娠を希望する健康な男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」(日本産婦人科学会)とされている。一定期間というのは一般的に一年とされているが、子宮内膜症や骨盤腹膜炎によって妊娠しにくくなることが知られており、総合的な判断が必要とされる。一方、妊娠の成立とはどう考えるのか?

1.卵巣から卵子が排卵

2.卵子と精子が卵管内で出会い受精

3.受精卵が卵管内で成長しながら子宮に向かって移動

4.受精卵が子宮に達すると子宮内膜に着床

このうち、その条件が1つでもクリアできないと、妊娠は成立しない。女性が妊娠・分娩を考えるには、パートナーも含め、婚姻、就労等を考える必要性がある。ファミリープランなどを考慮せず、妊娠・分娩に最適な年齢は20歳代、遅くとも30歳代までと考えられる。30歳を超えると自然に妊娠する確率は徐々に低下し、35歳を超えるとその可能性は急激に低下する。また、35歳を過ぎると、流産や胎児異常の割合が増す。45歳を過ぎると体外受精や顕微授精を行っても妊娠の成立は困難を極める。子宮内膜症や子宮筋腫の患者は、そうでない人よりも卵巣機能が低下する年齢が速いので、子どもを望む女性はなるべく早くから妊活したほうがよい。「妊孕能」という言葉があって、妊娠のしやすさを表す言葉であるが、卵子は卵胞内で成熟するので、卵胞の数は卵子の数ということになり、卵胞の数が多いほど妊孕能が高いということになる。卵子は女性が胎児の時に作られ、出生後には作られないことから、後から排卵される卵子ほど時間の経った卵子ということになり、妊孕能が低いものと言えることになります。


第18回:「眠り」後編(111号掲載)

最近、「睡眠負債」という言葉が、テレビ画面を賑わせているようですが、この言葉はスタンフォード大学の研究者により提唱されたもので、『日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼすおそれのある状態』ということです。現代人の多くが一日3~5時間の睡眠時間で働いていることに警鐘を鳴らしているのです。彼らによると睡眠の質にもよりますが、一日8時間の睡眠をとるのが望ましいということです。睡眠負債は、将来に認知症になるリスクが高いという報告もあり、今後の研究に注目したいところです。

前編でふれた睡眠時無呼吸症候群(SAS)ですがこれは、睡眠中に呼吸が止まってしまう病気で、その病気の原因は主に二つあるといわれています。

①閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)

②中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)

(OSA)は、呼吸する空気の通り道の上気道が物理的に狭くなり、その結果として呼吸が止まってしまうものです。気道の空気の通過するスペースが狭くなるのは、頚部やのど周りの脂肪沈着、扁桃肥大や舌根、口蓋垂、軟口蓋などによる上気道の狭窄が挙げられます。この場合、気道が狭くなって呼吸がしにくくなるため一生懸命呼吸をしようと努力します。

(CSA)は、呼吸中枢の異常による睡眠時無呼吸タイプです。肺や胸郭、呼吸筋、末梢神経には異常がないのに、呼吸指令が出ないことにより無呼吸が生じます。OSAと違い、気道は開存したままなので、呼吸しようという努力がみられません。

これらの治療法としては、減量、生活習慣の改善、CPAP 、口腔内装置、手術治療などがあります。なかでも、CPAPは鼻にマスクをつけて空気を送り込むことにより、空気の圧力で気道が閉じるのを防ぎ、呼吸を確保する器械です。家庭でも簡単に使用でき、効果の高い治療法とされています。

オステオパシーの見地からすると、咽頭・喉頭部の筋を支配する鰓弓性運動神経の機能障害があれば、支配する部位の筋が弛緩して気道を閉塞しているかもしれないと考えます。咽頭・喉頭部の筋の運動神経といえば、迷走神経(CN―X)あるいは舌咽神経(CN ―IX)で、これらの脳神経に頭蓋オステオパシーでアプローチをすると改善が見込めます。また、患者を指導し、弛緩しているぜい肉を減らして症状の改善に努める等、様々な効果をもたらします。


第17回:「眠り」前編(110号掲載)

皆さんは夢をみるでしょうか?夢をみないという人がいますが、それはみた夢を憶えていないだけで、誰でも夢をみているそうです。夢を憶えている人とそうでない人がいるのは、眠りの質に左右されているようで、ストレスや心配事で眠りが浅い人、すっきりとした寝覚めができず、睡眠と覚醒があいまいな場合は夢の記憶を引きずりやすくなります。

海に住む哺乳類のイルカなどは、一生泳ぎ続けて眠ってはいません。渡り鳥などは数千キロを休みなしで飛びます。彼らはいったいどこで、どのように睡眠をとっているのでしょうか?

実はイルカや渡り鳥をはじめ多くの動物は、危険から身を守るため人間のようにゆっくり眠っているわけにはいかないのです。これらの動物は片方ずつ脳を眠らせる『半球睡眠』という独特の睡眠法で睡眠をとっています。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)にかかると十分に眠れないことが原因になって、様々な症状が出てきます。次のような症状が見られるようになると要注意です。

○日中、起きている時しばしば居眠りをする、記憶力や集中力の低下、性格が変化する、など。

○眠っている時いびきをかく、呼吸が止まる、呼吸が乱れている、息苦しくて目が覚める、など。

人間はおよそ1日8時間眠るようにプログラムされているそうです。つまり、私たち人間は人生の約三分の一は眠っているということです。昼間に使って疲れた頭や体をゆっくりと休めてやるのが睡眠の大事な役割です。ここでゆっくりと睡眠がとれずにいると、眠い、疲れたという悲鳴をあげてくることになります。

SASは特に睡眠時に呼吸が止まってしまうので、体が摂取する酸素の量が不足して、様々な臓器に障害をもたらし、生活習慣病を引き起こします。(ex.高血圧、糖尿病、等)また、睡眠時に無呼吸に陥ることで、十分な質の良い睡眠がとれず、昼間に寝不足から、交通事故や事故災害などを引き起こす要因となってしまいます。チェルノブイリ原発事故などは人為的ミスがその原因として挙げられていますが、SASがその1つであるという説もあるほどです。また、もっと身近なところではSASによる眠気や居眠りによって、作業効率や生産効率が低下するだけでなく、機械に体を挟まれて大けがをしたり、死亡事故を引き起こしたりすることもあります。SASが私たちや社会に与える経済的損失は決して、小さなものではありません。


第16回:頭蓋オステオパシーを考える(109号掲載)

最近の手技療法の分野に小顔矯正なるものがあります。高額なお金を支払って身体の不調を改善するならまだしも、顔を小さく見せるために頭蓋に無理な力を加え、その並びを歪めてしまっているのです。オステオパシーの原理は、「身体は一つのユニットである」「身体は自然治癒力、自己管理能力を持つ」「身体の構造と機能は相互に関連する」オステオパシーの合理的な治療は上記3つに基づいているのですが、頭蓋オステオパシー(OCF)もまた頭蓋の構造を正しく整えれば、身体の機能も正しく働き健康も保てるでしょう。しかし、見た目を良くするために頭蓋を歪めれば、身体の機能は崩れ、健康を損なうことになりかねません。

OCFは、1989年当時KCOMの学生だったウィリアム.Gサザーランド, DOが、A.T.スティル,MDの治療している場面を見て、患者の蝶鱗関節がまるで魚のえらのように動くことから、OCFという新しい分野の治療法を考え出したことが知られています。その新しいOCFも、当時すぐに受け入れられたわけではありません。アメリカオステオパシー協会がOCFはオステオパシーの一部であると認めるまで、50年の月日を要しました。例えば、1970年代の解剖学のテキストには、仙腸関節は動かないとされていたそうですが、仙腸関節はいわゆる滑膜関節の一種で、これが動かないとすれば、手技治療家はどうして生計を立てていくのか、考えないといけません。仙腸関節でさえも動かないと信じられていたのに、頭蓋の縫合まで動くなどというと、そう簡単には、受け入れ難い概念でしょうが、縫合は動き、それをもとに治療をするのです。OCFは即効性のある劇的なテクニックというより、自閉症や学習障害など精神的な疾患に対して着実な治療効果を挙げています。

OCFを中心に研究、学会発表、臨床試験、資格などを統括しているのが頭蓋学会(CA)です。私もCA会員ですが、詳細な医学的知識が必要とされるので、会員になるにも、CA認定のセミナーに参加するにも、DO, MD, DDS(歯科医師)にしか認めていません。OCFを学ぶには、ハードルが高い反面、私がKCOMに通っていたころ、16校しかなかったオステオパシー医科大学が現在は30数校を越えるほどに増えています。それはOCF を教える良い教授が足りなくなっているということで、アメリカのOCFの現況も厳しくなっています。


第15回:過敏性腸症候群(IBS)のオステオパシーテクニック(108号掲載)

治療における基本的な目標は、そこに原因が存在すればその病気の原因を除去し、その原因が不明確であれば治療はその症状に対して行う。過敏性腸症候群(IBS)の治療は食餌療法、薬事療法、それに加えてオステオパシー手技療法(OMT)を組み合わせたものになるが、本誌の読者が最も興味のあるのはOMTだろうと思うので、OMTについてのみ話を進めていこう。

IBSは、『機能的な病変状態』と考えられ、内部刺激に過剰刺激を呈し、外因性自律神経の制御接続を通して外部刺激にも大きく影響を受ける。したがって、構造と機能の関連を改善するOMTはIBSの治療にとって効果的である。この機能的疾患の治療過程において食事、薬物療法にOMTを併用するとそれぞれの治療を別々に行うよりも、患者の快適性と臨床状態に大きな差が出る。

オステオパスは、①腸への自律神経の活動の正常化 ②リンパの良好な流れ ③内臓の交感神経の支配領域での体性の関節のSDの正常化を目指して治療に当たる。機能的疾患を持つ患者に対し、患者自身の自己調節機能のサポートを目的とした治療をすることは、解剖学と生理学の理解に基づく実質的な結論となる。IBSは患者の治療の成否は、その疾病経過や機能障害のメカニズムをオステオパスがどれだけ理解しているかにかかっている。

  ○交感神経に対するOMT

  ○リブ・レイジングと胸腰部(T10|L2)の軟部組織テクニック

  ○側腹(椎前)神経節に対する抑制テクニック

  ○チャップマン反射点の治療

  ○副交感神経に対するOMT

  ○仙腸関節のSD(仙骨内臓神経)の治療

  ○OA,AA,C2に対する治療と後頭顆減圧

  ○リンパに対するOMT

  ○胸腰連結に対する軟部組織テクニック

  ○胸郭入り口の治療と腹部横隔膜のドーム化

  ○腹側腹部テクニック

これらのOMTテクニックを用いて、オステオパスはIBS患者を治療しているが、OMT治療の良好な結果は組織の触診で分かり、治療の時だけに限らず、その後も継続するものである。OMTは患者をリラックスさせ、内因性/外因性の自律神経の調整メカニズムを正常化し、うっ滞を軽減することによって、患者に恩恵を浴するものである。


第14回:IBS(過敏性腸症候群)に関して②(107号掲載)

人間が食物を摂取する際、最も中心的な働きをするのは言うまでもなく消化器系である。生きていくうえで重要な生理現象であると同時に糖尿病、胆嚢炎や癌など食生活と深く関わる病気も数多い。口から取り入れられた食物は機械的分解(咀嚼・蠕動運動・分節運動)をされ、消化酵素の働きにより化学的分解が行われる。食物が胃から腸に運ばれる時点での消化物には水分が多く含まれ、約20時間かけゆっくり腸内を通過する間に水分が腸に吸収され、適度な硬さの便となる。水分の吸収は小腸で6~8ℓ、大腸1~2ℓ、糞便中0.1~0.2ℓといわれている。腸に運ばれた糞便は排便時には固形物25%、水分75%の組成となる。しかし、以下のような腸でのイレギュラーな事象として下痢や便秘が起きる。

 

【下痢】

IBSの場合、腸の運動が過剰になり消化物の通過が速く、腸で水分を十分に吸収できなくなる。食中毒や大腸の炎症により腸粘膜からの分泌が増え水分を吸収しきれなくなる。糖尿病のような全身的な病気により、水分の吸収が低下している。その結果、泥状や液状の便となってしまい下痢になる。

 

【便秘】

弛緩性便秘のような全身性の病気により、結腸の運動が鈍くなる。大腸癌やポリープなどの原因で腸が狭くなり、排便時は通りにくくなる。IBSや腸閉塞のような痙攣性便秘などが原因で腸腔が狭くなる。習慣性便秘のように、排便を我慢することにより便が直腸に留まる。このような原因で消化物が腸内に長時間とどまった結果、消化物の水分が腸に吸収され過ぎて硬い便ができ便秘になってしまう。

IBSは器質的な変化を伴わず、その特徴は下痢と便秘を繰り返す機能的疾患で、慢性、再発性、断続性、非感染症、そして非病理性の疾患である。

IBSには、痙攣や腸収縮にそのヒントがあるように思うので機能的に通常腸にみられる収縮を挙げる。

推進性収縮―内容物を腸内で移動させる。

逆推進性収縮―内容物を胃の方へ逆移動させる。流体の吸収に時間を与えるため、糞便の前進を遅くするこの収縮は上行結腸と横行結腸に多く見られる。

非推進性収縮―腸の内容物を混合し、1つの結腸膨起から次の膨起へ移動させる。

集団蠕動―通常1日に1~2回起こる収縮で盲腸や上行結腸に滞留した主糞便を圧縮し、早急にS状結腸に送り込む。

胃大腸反射―食後に起こる集団蠕動。過剰または過度でなければ正常。

腸には、外因性と内因性の神経制御システムがあり、神経叢の機能や全身機能への関わりによって患者に与えられたストレスは意識されるか無意識のうちに終わるかが決まる。

またその反応が一時的か持続的かで病理段階へ進むかが決定される。


第13回:IBS(過敏性腸症候群)に関して(106号掲載)

皆さんは過敏性腸症候群(IBS)という病気をご存知だろうか?20~30年前には、あまり診断を下されることがなかった消化器系の病気である。社会生活の多様化に伴い、ストレスに起因するうつ病などの“心の病気”が多発しているが、このIBSもそういった心の病気の一つだといわれている。私がアメリカで研修医をしていたころ、ローテーションで回った胃腸科のクリニックでは、患者の6割がIBSとの診断を受けていた。

 

 ではIBSとはいったいどんな病気なのだろうか?その病気はストレスなど精神的重圧に起因し、慢性的に下痢と便秘を繰り返す疾患である。その特徴としては、癌や潰瘍のように患部には病理学的変化は見られないという点である。オステオパシーには、その治療の対象となる病変に“体制機能障害(Somatic Dysfunction:SD)”と呼ぶものがあるが、IBSは言ってみれば、消化器系の“機能障害”なのである。SDは体性の、つまり筋骨格系の組織には骨折や腱、靭帯の断裂のような器質的な異常が見られないにもかかわらず、その機能に異常をきたしている状態の事を指す。IBSも下痢と便秘が起きる際に、大腸の働きに異常はあっても、大腸自体の組織に器質的な変化は認められないという点に共通性を見出すことができる。

 

 IBSによる下痢・便秘が一般的な下痢・便秘と異なる点で特筆すべきは、IBSの主な原因はストレスによる疾患だということ。一部の研究では、患者の精神疾患がしばしばIBSの診断に先行するという報告もあり、この病気の心因性の側面が強調されている。多くの場合、下痢・便秘の症状に腹痛、腹部膨満感、ガス症状、何となくお腹が気持ち悪いというような不定愁訴的な症状を伴う。排便によってその症状が和らぐこともIBSによる下痢・便秘と見極める症状となる。

 

その他IBS患者の特徴として

・体重が減らない発熱しない

・直腸潰瘍・直腸出血はない

・貧血はない

・大腸がんの前駆とは言えない

 

10~30代の若い世代に多く見られ、通勤・通学の電車の中で急に便意を催すことが度重なり、学校や職場へ行くことを控えるようになって、不登校や引きこもりとなる場合もある。

 

一般的に潰瘍性大腸炎、大腸癌、クローン病などの器質的胃腸疾患が診察の際に見つからないと、IBSと安易に診断を下してしまう傾向にあり、実際のIBSより水増しされたIBSの患者が存在しているものと思われる。(続く)


第12回:関節リウマチとそれに対するOMT(105号掲載)

関節リウマチは、関節に炎症、痛みや変形を伴うことから、関節筋骨格系障害と思われがちだが、これは全身性疾患である。処方される薬剤の副作用を抑え、恒常性メカニズムを強化し、患者のもつ現存する構造の範囲内で機能を最大限に引き出すオステオパシーのマニピュレーションは、この難病の管理に特別な役割を果たす。(関節リウマチの患者にどのような利益がもたらされるのか、検証してみたい。)

 

関節軟骨には血管やリンパ管は分布していない。滑液が関節を栄養し、免疫合成物と代謝老廃物を処分する場となる。滑膜への血流が低下すれば、患部の栄養状態を悪化させるうえに、免疫複合体が蓄積し関節の破壊につながる。組織学的観点からいえば、軟骨が最良の状態で維持されるには、関節面が断続的に接触し、圧縮を受ける必要がある。このような接触は軟骨の局所的栄養を改善し、その領域から免疫複合体を除去する。また、関節リウマチと特に密接であるのが、滑膜の浸透性である。交感神経活動が亢進すると罹患関節への血流が低下し、栄養物、酸素、薬剤の供給が低下し、組織の低酸素症を招く。それが基底膜の多葉化を促進、肥厚化し、関節の浸透性を更に低下させる。交感神経の亢進状態を抑制することは、関節リウマチの症状と病理の悪化を防ぐ。

 

関節リウマチに特筆すべきOMT

・関節周囲組織にアプローチする方法として軟部組織テクニック

・圧痛や炎症を起こした関節に対する間接的療法の筋膜アンワインディング

・亢進した状態にある交感神経の抑制として椎傍・椎前テクニック

・促通効果を起こしている分節があれば、その部位のSDを治療

・リンパ排液路を開き、患者の呼吸ポンプを最大化、その他関節ポンプ

・肝臓ポンプとCV4は全身の解毒を助ける手段として多用

・頚部のHVLAに関して、環椎十字靭帯弱化は潜在的病理性亜脱臼と関係していることが多く、重篤な関節炎患者には禁忌である


第11回:関節リウマチとオステオパシー Vol.2(104号掲載)

関節リウマチ(RA)がどうして起きるのかの原因はまだ明らかになっていないが、この病気は、免疫の異常により関節に炎症がおこり、痛みや腫れ、そして変形を引き起こす慢性疾患である。

 

 実際、関節リウマチに罹患すると、個人差はあるものの、状態が良くなったり悪くなったりしながら、慢性的に症状が続くことになる場合がほとんどである。また、日本リウマチ学会では「Rheumatoid Arthritis」の日本語訳を「慢性関節リウマチ」としていたほど関節リウマチといえば慢性的な疾患と認識されていた。

 

その後、それが誤訳だと判明し、日本リウマチ学会では正式名称が、そして厚労省では特定疾患名が「関節リウマチ」と変更されたが、難病である病態自体は変わっていない。

 

 ごく一般的なRAの病因説としては興味あるもののうち次の4つが挙げられている。1つ目はマイコプラズマ(Mycoplasma fermentans)。抗原の研究からRAの原因の1つと推察されている。2つ目は喫煙。シトルリン酸と喫煙の遺伝学的データの報告から喫煙がRAと関連していると予測されている。3つ目として糖入り炭酸飲料の多飲。米の大規模女性コホート調査のデータによると、糖入り炭酸飲料を多飲するとRA発症のリスクが高く、それは55歳でより顕著になっている。4つ目は遺伝的な要因や感染等による免疫系の働きの関与も示唆される。

 

 関節リウマチは複数の、特に手足の関節に左右対称に症状が現れるという特徴を持つ。注目すべきはPIP(近位指節間関節、MC(中手指節間関節)、手関節で、これらの部位に関節炎が見られると関節リウマチであるということが言える。脊椎の胸椎・腰椎にはあまり関節炎は見られないが、頸椎、特にAA(環軸関節)、OA(後頭環椎関節)を施術する際には細心の注意をはらうべきで、HVLA(オステオパシーのテクニックの一種)のような強いテクニックは絶対禁忌である


第10回:関節リウマチとオステオパシー Vol.1(103号掲載)

病理組織学的に細胞と細胞をつなぎとめている結合組織の構成部分の膠原線維に炎症を起こしている病気の総称を膠原病と呼ぶ。もう少し加えるならば、結合組織とは全身の諸器官に分布、組織を相互に結合して支持し、一定の形態および位置を保つ役割を果す組織である。その中で、膠原線維とはコラーゲンから構成され、伸長性には欠けるが、引っ張りには強いという性質を持っている。その膠原線維に炎症が起きる疾患群を膠原病と呼ぶ。その中でも、対象となる疾患は全身性・臓器特異性自己免疫疾患を合わせて50種類以上あり、国の難病指定を受けている。

 

膠原病はサイトカインが異常に分泌されて、免疫において重要な役割を果たすリンパ球が働き、正常な抗体が出現して自分の組織に炎症を引き起こす。なぜ異常な働きをして自分を攻撃するのか、原因はまだよく分かっていないが、ウィルス感染や遺伝的素因によって引き起こされるのではないかと考えられている。

 

膠原病の中で最も多いのは、関節リウマチである。ある決まった部位・関節に多く発症するが、これは自己に対する異常な免疫のために、自分の関節に変形を伴う全身性の自己免疫疾患である。女性に多く、疾患発症年齢は30~40歳であるが、一般的に完治しないとされる疾患のため、必然的に患者の年齢層は高くなる。程度はほとんど症状が現れない軽いものから、薬を色々替えて使っても症状が抑えられない重篤なものまで多岐にわたる。進行具合も、発症後1~2年して、関節痛もほぼなくなり、治ったかのように良くなることもあるが、多くの場合は良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら、次第に関節変形などが進んでいく。稀に症状が非常に早く進行することもある。

 

このやっかいな疾患の多くは、立ち仕事をストレスとして発症する。美容師、花屋、店員などに多く、1日7~8時間立っていると、重力という負荷が掛かり、膝の滑膜が損傷を受ける。すると傷んだ組織を修復しようとして関節の滑膜に炎症が起きるのである。

 

現代医学は関節リウマチを免疫の過剰と捉え、リンパ球の働きや自己抗体を作るのを抑えるために、ステロイド剤や免疫抑制剤を用いることが主流だが、治療効果が上がっていないのが実情ではないだろうか。現在の治療の問題点や「治る治療」へ向けたアプローチについては、次回に譲りたい。


第9回:これからの医療(102号掲載)

厚生労働省発行の平成25年度の簡易生命表を見ると、日本人の平均寿命は女性が86.61歳、男性80.21歳。男女とも80歳を超え、益々長寿の国になり、数字だけを見ればめでたしめでたしといったところであろうか。

 

しかし、膨大な赤字を抱える健康保険行政、社会的に複雑な問題提起をする介護等、どれを取り上げても安穏としていられないのは誰の目にも明らかなことだ。人口が減少している日本は、ピラミッド型の人口分布から釣鐘型のそれになっているということは、私の小学校時代の教科書にも載っていたと記憶している。生産世代が多く存在していた時代はともかく、年金生活者を支える世代が減っては困ったものだ。こういうことが分かりながら、有効な手立てを怠った政府にも責任はあるが、私たちの生活は私たちで守るしかない。認知症や寝たきりという言葉に恐れを抱く方も多いであろう。いわゆる「ぴんぴんころり」とか「生涯現役」とかいう言葉が現実味を帯びてくる。

 

現代の薬漬けの医療を見ていると、とてもそちらの方向を向いているとは思えない。例えば高血圧で医者にかかると、血圧降下剤の処方により血圧は下げることができる。しかし、その薬を飲み続けなければならない。高血圧の原因は現代社会のストレスの高い日々にあり、その生活習慣を改めない限り、根本的治療にはならない。それなのに薬を飲めば血圧が下がり高血圧が治ったかのように思っている。

 

交感神経が昂進すると血管が収縮し、細胞各部への血液供給が落ち、新陳代謝が悪くなると言われている。また、白血球内の顆粒球が増える。顆粒球は私たちを細菌による感染症から活性酸素により守ってくれているが、問題はこれが増えすぎた時には活性酸素の強力な酸化力で正常な組織を攻撃してしまうのである。癌、胃潰瘍、糖尿病やパーキンソン病の原因はこれだとする説も存在する。

 

薬は根本的に病気を治すのではなく、諸症状の緩和として処方されているものである。さらにはその症状に対して効いてほしい治療効果だけならいいのだが、ほとんどの薬には副作用があり、その副作用を抑えるためにまた別の薬を処方する。そして次々と薬が増えていくことになる。根本的治療というものは本来私達の身体が兼ね備えている機能である。私達はその機能をフルに活用できる状態に保つことをすれば良い。


第8回:アロパシー医学は対症医学(101号掲載)

アメリカでは、オステオパシー医学とアロパシー医学が存在する。「んっ!アロパシー医学って何?」と首をかしげている人もおられることと思いますが、これはいわゆる「対症医学」で、今、一般的に行われている西洋医学のことです。アロパシー医学という言葉は、オステオパシー医学のように対比するものがなく、区別のために使われないので、知られていないのも仕方がありません。

 

 現在主流となっているアロパシー医学は、怪我や病気のために出現している「症状」を抑えるためのものであって、根本治療ではありません。例えば風邪をひいたとすると、のどの痛みを訴えてくる患者さんがおられます。そういう患者さんには抗炎症剤を投与します。鼻水が出て困るという患者さんには、抗ヒスタミン薬を、頭痛の患者さんには頭痛薬を、また熱のある患者さんには解熱剤を処方します。でも、ここでよく考えてみてください。咳やくしゃみ、発熱というのは人間の身体がもつ防衛のための生理的現象なのではないでしょうか。咳止めの薬をもらい、それによって治癒してきたのならいいのですが、口腔や鼻腔から入ってきたごみ、細菌やウィルスなどを、咳やくしゃみによって体外へ弾き出そうとしているのに、薬によって症状の一つが治まっているだけだとしたらどうでしょうか。

 

 また、発熱することも悪いことではなく、人間の免疫システムは体温が38.5度程度に上がっている方が効率よく機能します。人間は42~43度があまり長く続くと脳に悪影響がでることもありますが、40度ぐらいでは別に脳に何にも不都合は起きないと言われています。外から入ってきた病原菌やウィルスと戦うのに都合がいいように体温を上げているのに、37.8度や38.0度で一喜一憂するのはおかしいのではないでしょうか。

 

こうして見てくると、アロパシー医学は風邪の症状は抑えることができても、風邪を治すことはできないのではないかと思います。実際、これだけ薬に溢れているアロパシー医学、つまり西洋医学の社会でも、単なる風邪を治す薬は今も存在しないのですから。


第7回:これからの医療「オステオパシー」(100号掲載)

過日アフリカで発生したエボラ出血熱の流行を危惧した世界保健機関(WHO)と各国政府は、感染者が何千、何万名になるとの予想を打ち出していた。その頃、日本でもデングウイルスの感染によるデング熱が東京のど真ん中でおよそ70年ぶりに発生した。目に見えない敵が襲ってくることに、映画の「バイオ・ハザード」よろしく、世紀末を感じた人もおられたのではないだろうか。

 

ウイルス自体が微生物学においてその存在を明らかにされる以前、体調を崩す人が増え、ばたばたと人々が倒れ、命が奪われていく状況を悪魔に取り憑かれたと考えられても仕方のないことであったろう。

 

そもそも、ウイルスとは何であろうか。ウイルスは生物かというと細胞を持たないので、生物学上は生物とされていない。細胞は持たないけれども、遺伝物質を持ち、他の生物を利用して増殖をする。そうすればウイルスが生物の特徴を持ち、なおかつ他の生物との関連性があることは確かである。

 

細胞は生きていく上で必要なエネルギーを作る独自の製造ラインを持っている(代謝系)。しかしウイルスは代謝系を持たず、その全てを宿主に依存しているため、宿主の細胞増殖を介してのみ自身の増殖が可能とされる。ウイルスに唯一できることは、他の生物の細胞内に侵入し、その生物の遺伝子の中に自らの遺伝子を組み込むことである。ウイルスの感染、増殖は宿主の恒常性の乱れを引き起こす。これこそが病原体として人々の健康に脅威を与える悪者としてウイルスが定義される所以である。

 

ウイルスによって病気に罹患するか否かは、宿主の防御ラインがしっかりとその機能を果たしているかどうかに関わるところが大きい。即ち、栄養バランスよく食べ、適度な運動を行い、ストレスの少ない生活を送っていれば、そう簡単に健康ラインは破れない。健康ラインをしっかりと強固なものにしておくには、日頃から身体のメンテナンスを心掛けておくことが望ましい。日常におけるケアこそがこれからの高齢化に向かう社会の医療としてふさわしいのではないだろうか。

 

対処から防御へ、治療から予防へ。我々が本来備えている自然治癒力という素晴らしい力を高め、人体の機能を充分に発揮させることを目的とする「オステオパシー」は間違いなくその一翼を担うであろう


第6回:オステオパシーのルーツ(99号掲載)

本紙は『カイロタイムズ』であり、当然、読者の多くはカイロプラクターだろう。カイロプラクティック創始者のDDパーマーと、オステオパシー創始者ATスティルM.D.は同じ時代に米国中西部に住んでいたという。DDパーマーについては読者の皆さんがよくご存じであろうから、今回はATスティルについてご紹介したい。

 

1818年バージニア州に生まれたATスティルは、父の跡をついで医師となり、南北戦争時は北軍の兵士として戦い、州議会の議員として活躍したとのことである。幼少の頃、頭痛もちだった彼は、ある昼下がり、庭で本を読んでいた時、いつものように頭痛に襲われた。仕方なく、横になった彼は、庭にあったブランコを首に引っかけると、知らぬ間に寝てしまった。ほんの15分ぐらい寝ていただろうか、起き上がった彼は、いつもの重い頭痛がすっかりなくなっているのに気が付いた。

 

後に、悪い疫病が流行った際、医師でありながら脳脊髄膜炎に罹ったわが子たちを救えなかった彼は、「医学はどこかが間違っている」と思い、解剖学を中心に医学を洗い直した。インディアンの墓を掘り返し、遺体を取り出し解剖を行ったそうだ。その結果、彼の目には、筋骨格系の大切さがクローズアップされてきたのであろう。このことが幼い頃の記憶を呼び覚まし、頭痛という生理的な症状と、首を引っかけ伸ばすという筋骨格系の力学的な現象には、何らかの関わりがあることを確信した。彼は研究をつづけ、1874年6月22日、遂にオステオパシーという新しい医学を作り上げた。

 

ATスティルの時代の医学は、食中毒の患者には水銀などの毒物を与えて吐かせたり、膝の痛い患者には、ヒルに血を吸わせたり、前近代的な手法がまだまだ多かったようで、彼が医学を洗い直したというのも当然のことかもしれない。

 

もう一点、彼の医学に対する考え方で特筆すべきは、薬に対する「嫌悪の念」である。彼の兄弟が痛みの緩和にモルヒネを使い続け、ついにはモルヒネ中毒になってしまったため、以前から、薬を用いた治療に疑問を抱いていたATスティルはますます薬を嫌うようになった。オステオパシー大学でも薬理学は必要ないとされていたため、一時期、DOの薬理学は医師国家試験でもウィークポイントの時代があった。それが創始者の意思とあれば仕方のないこと…かもしれない。


第5回:もう一つのタイプの医師(98号掲載)

アメリカで医師といえば、2種類の医師が存在する。

 

アロパティック医師~メディカル・ドクター(M.D.)

オステオパシック医師~オステオパシック・ドクター(D.O.)

 

は各々アロパティック医科大、あるいはオステオパシック医科大を卒業して、適法な医事委員会により免許を受けて、医療行為の権限を与えられた開業医である。(Dorlandのイラスト医学辞書、第27版)

 

セシルの『Textbook of Medicine』によれば、OMTの教育を除けば、DOの教育はMDの教育と全く区別がつかないと言われている。病院での研修医の訓練や全米50州において制限のない医療権限などをみてもDOのそれらはMDのものと変わらなくなっている。全米にMD医科大は135校、DO医科大は34校(分校等を含む)あり、そのうちミシガン州立大学などは同じ大学内に、MD医学部とDO医学部を併せ持っている。

 

MDとDOの比較をしてみると、性別、人種による違いはあまり見られない。2010年の統計で約73,000名おり、全米医師の5.5%を占めるが、とくにDOは軍と密接な関係があり、軍医の10%がDOである。だから、沖縄や横須賀基地へ行くと、米本土よりもDOに出会う確率は高くなるという事になる。

 

ここ10年の医療業界で、オステオパシーの伸びは目を見張るものがあり、DO医科大数が2倍に増え、年間に輩出する新任DOも2015年には3.5倍に達する見込みである。全米で1年間を通して家庭医を受診する患者数は,MD医師に2億7千万人、DO医師に6千5百万人である。DO医科大の卒業生の半数以上は、家庭医学科、一般内科、産婦人科、小児科などのプライマリケアの分野で活躍している。

 

最近のDO医科大の増加とそれに伴うDOの進出によって、その昔に比べオステオパシーの何たるかを知っている人々も増えたが、まだまだDO医科大のない地方やDOの少ない州では、その知名度は低い。これから21世紀の医療としてますますその使命を試されるオステオパシーの行方を見守っていきたい。


第4回:言い訳~アメリカン・ジョーク~(97号掲載)

今回は、結構、現地大学生の生活を表しているので、このアメリカンジョークを紹介しよう。

 

シカゴにあるC大学のジョンとマイクは医学部志望の学生。二人は、B教授の化学を履修していた。B教授はC大学にB教授ありといわれるほど著名で、彼に化学を教わってその道に進んだという学生も数多くいるほどの人気教授である。

 

アメリカの医科大学は、大学院のレベルに位置し、一般大学を卒業してから進学するが、クラスで上位10%にいなければならない。二人は、翌年に受けるMCATという医学部進学共通一次試験で失敗さえしなければ、志望するオステオパシ―医科大へ行けそうな手ごたえを持っていた。医学部受験には必須科目の科学(無機化学、有機化学、物理、生物)はAを取得したいところだった。

 

期末試験を控えたその頃、二人はパーティーに誘われた。パーティーは土曜日にニュージャージー州であり、化学の試験は月曜日である。しかし、車を飛ばせば丸一日で着く距離だ。二人はパーティー終了後直ぐに出発すれば、月曜日の試験に間に合うだろうという甘い目論見を立てた。

 

 さて、土曜日、二人は時間を忘れて楽しんだ。疲れて寝込んで目を覚ましたのは日曜日の昼過ぎ。慌てて飛び起き、車を飛ばし、シカゴへ急いで帰った。それでも大学へ着いたのは月曜日の昼。もうとっくに化学の試験は終わっていた。

 

B教授に試験を受けられなかった弁解をした。土曜日にニュージャージー州まで行って、土曜日中には現地を発ったが、途中山中で雪が降ってきた。そこへ運の悪いことにタイヤがパンクしてしまい、雪で通る車も無く、長時間震えながら助けを待って、やっとこさ着いたのが今日の昼だった…と。

 

 気の毒そうに話を聞いていた教授は、明くる日の同じ時間に再試験を実施する旨を二人に告げた。人間味あふれる処置に深く頭を下げて、二人は家に帰り試験勉強に励んだ。

 

 翌日、B教授は試験を持って現れた。二人に別々の部屋で試験を受けるように指示し、試験を手渡した。1ページ目は易しい化学式の問題で、二人は「もらった」とばかりにほくそ笑んだ。だが、2ページ目を開いて二人の顔が引きつった。

そこには、こう書かれてあった。配点85点 「パンクしたのは、どのタイヤでしたか?」


第3回:SD~ソマティック・ディスファンクション(体性機能障害~(96号掲載)

アトラス・オステオパシーATスティルMDの語録に「健康な状態を見つけるのが医師の役目である。病気ならだれでも見つけられる。」という言葉がある。

 DO(オステオパシー医師)は患者の治療に際して、まずSD~ソマティック・ディスファンクション(体性機能障害)を探す。SDとは体性の(筋骨格系の)機能が変調を受けている状態で、まだ器質的な変化を伴っていない段階である。顕微鏡や内視鏡を覗いてもその組織に異常は見られない。まだ病気が存在しないうちから、機能障害の部位を見つけ、非病理の状態を治療し、未然に病気を回避するのがオステオパシー医学である。

 

 SDを見つけるには4つの手掛かりを探す。

1.T Tenderness(疼痛)

2.A Asymmetry(非対称)

3.R Range of motion abnormality(可動域の異常)

4.T Tissue texture change(組織の触感の変化)

頭文字をとってTARTと呼ぶ。これらTARTの存在するところにはSDが存在する。

*TendernessをSensitivity change(感受性の変化)として、STARと呼ぶ場合もある。

 

健康には幅があり、それには、全く健康な状態から、身体の様々な代償作用によって症状が隠されている状態まであり、一見して健康に見えても、実際はもう少しで病気が出現する手前の人もいる。健康な人には治療は必要なくても、限りなくクロ(病気)に近いグレーの人が治療を必要とする。病気が出ていれば誰でも分かるが、機能障害の段階ではOMT(オステオパシー・マニピュレーション治療)のトレーニングを受けたDOないしオステオパスにしかわからないであろう。

 

この場合、機能が変性を受けているだけの状態であるため、比較的易しい治療で十分である。大抵の場合、薬や外科手術は必要なく、DOは非侵襲的なOMTを用いて、患者の筋・筋膜・神経・リンパなどの治療にあたる。そのほとんどの患者は不定愁訴をもっていながら、病院でのMDによる診断では原因が分からず、病気ではないとの診断を受けることがよくある。


第2回:オステオパシー医学~これからの医療~(95号掲載)

オステオパシーはアメリカ発祥の、徒手療法に重きを置いた比較的新しい医学であるという点が特徴ですが、DO(Doctor of Osteopathic Medicine)はアメリカではMD(Medical Doctor)と同じく、医師として制限のない医療権限を持ったProfession(職業)です。そして、両者は同じくPhysician(医師)として一般市民の認知を得ています。

 

病院で臨床にあたっているDOはたくさんいますが、DOはMDと同じように患者を診て、手術をして、処方箋を書きますので、患者は区別がつかず、自分のかかりつけの医師がDOだということを知らない場合が結構あります。また、何度か受診しているうち名札を見て初めて自分の担当医がDOだと分かる患者もいます。

 

現在全米で32校のオステオパシー医科大学があり、ここ10年で倍増しているのですが、何故でしょう?iPS細胞のような先進医療に目を奪われがちですが、日頃の健康に気を配ることの大切さが見直されてきているのではないでしょうか。

 

医療の最前線で国民の健康を守る家庭医と呼ばれる専門医を多く輩出するDO医科大では日頃の健康に配慮します。専門医で病気を突き詰めるのも大事なら、多少浅くても広く健康について知識を持つことも大切なことです。

 

日本はこれまでにない高齢化社会に入ってきました。もっと徒手医療に政府は目を向けるべきだと思います。高度な再生医療がニュースになりますが、日頃から交感神経優位を鎮め、リンパ(体液)を流し、体のバランスを保っていれば、救急車でICUへ搬送されるリスクを下げることができます。それにはオステオパシーがいいことは言うまでもありません。日頃から、オステオパシー治療を受けて健康に留意しておけば、赤字に悩む医療費の節約につながると思いますが、いかがでしょうか安倍さん・・・


第1回:もう一つの医師(94号掲載)

「オステオパシー」という言葉を聞くと、「あぁ、カイロの優しいテクニックでしょう?」とか、「何か不思議なヒーラーの使うテクニック。」などとおっしゃる方もおられますが、そのどちらも正しくはありません。オステオパシーはアメリカで生まれた医学で、そのオステオパシー医師は従来からあるアロパティック医学(対症医学)と、全く同じように教育され、同じように訓練され、同じように患者から信頼されています。日本のように「民間医療」に位置付けられてはおらず、現代医学の本流を流れるれっきとした医療です。

 

 アメリカで医師になるには、2つの道があります。一つはMD医科大学を卒業すること、もう一つはDO医科大学を卒業する事です。各医科大学により特長はありますが、基本的には全く同じカリキュラムで教育がおこなわれています。アメリカの医科大学のカリキュラムは4年ですが、日本と違うのは一般大学を卒業してから医科大へ進学するということです。アメリカでは、医学部、法学部、経営学部は、一般大学を出てから行く、つまり大学院のレベルにあるということなのです。ですから、インターン、レジデントの研修を終えて一人前の医師になるには最短コースをとったとしても30歳前になってしまうということです。

大学の入学選考は、

 

1) 大学の通知簿の平均点(GPA)

2) MCAT(Medical College Admission Test)医科大学入学共通試験

3) 大学教授等の推薦状

 

GPAにしてもMCATにしても、そのクラスで上位10%にいないと、とても合格できません。私が入学したアメリカ、ミズーリ州にあるKCOM(Kirksville College of Osteopathic Medicine)などは145名の定員に対して約4,000名の応募があり、アメリカでも医学部の門は非常に狭くなっているのです